氷壁(本)

 
 
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先週末に『氷壁』を読み終わりました。
いい本にめぐり合えたという満足感でいっぱいです。
井上靖といえば
 まじめな児童文学・歴史小説⇒古い文章語⇒読みにくい・退屈⇒眠くなる
 面白くなかった国語の授業と教科書に載ってる小説家
NHKドラマの原案になっていなかったら、手に取ることは無かったでしょう。
(TVは半年くらい見ていませんが、芸能ニュースはチェックしてます)
氷壁
氷壁
著者:井上靖
出版社:新潮社
サイズ:単行本/517p
発行年月:2005年12月
文庫本はこちら ⇒ 氷壁改版
実際読んでみて、一部時代を感じさせる文章語、風俗表現はありましたが、 これはまさしく現代小説でした。
・大人になりきれない30代
・筋は通っているが偏屈な上司と骨太だが大人になれない部下
・二人ともまわり流されず、上司は部下を時に頼もしく感じる
・歳の離れた夫婦の関係
・若さへの嫉妬
・女性の妖しさ、強さ
・男をめぐる二人の女性の対峙
・科学と自然、そこに向き合う技術者と非技術者
人間ドラマがここにはありました。
主人公、魚津は「登山は冒険ではない」「スポーツ プラス アルファ」と言っていましたが、 最後の登攀に、過去との決別、ひとりの女性と新しい人生を生きる決意を”賭け”てしまっています。
その時点で退路を絶ち、前に進むしかない、進まなければならない状況に自ら追い込んでしまっています。
登山とは相容れないルールを持ち込んでしまったところに悲劇が生まれたのでしょう。
親友小坂の死についても、ザイルの問題とは別に、同じような人生の”賭け”が働いていたと思います。

さて、昭和30年という時代は、どのような時代だったのでしょうか。
戦後処理も落ち着き、高度成長の始まりの年です。
登場人物は、戦中、戦後生きてきた人でありながら、当時の暗さ、混乱、人格形成に与えた影響等の描写がありません。
高度成長期の競争社会の始まりを感じさせる社会描写もありません。
何か不思議な年です。
昭和前半の小説という何でもかんでも戦争にからめたエピソードが描かれているという固定観念がありましたから、 そういう描写がないこの小説は、”今”の人間ドラマとして読めました。

もう一つ印象に残ったことといえば、小坂の火葬場面です。
生を強く感じ、自然に還っていく描写が神秘的です。
今の私たちの葬儀といえば、葬儀屋さんの段取りどおりに進行し、悲しむ場面も限定され、 だから気持ちを切り替えて新たな生活が始められるのかもしれませんが、システムの後処理を行った感が残ります。
願わくば、小坂のような火葬で私も終わりたいと思ってしまいます。

それにしても、最近続けて読んだ『白夜行』も『氷壁』も、妖しく、強い女性に翻弄された形で男が死んでいくという結末でした。 あるいは殉教といって良いかもしれません。そして、女は生き続ける。
偶然なんだけど、一層強く印象に残りました。


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